バスクの酒イザラと雪のカクテル
2011年2月19日

1昨日、MさんとMさんのお友達がやって来た。
Mさんは去年結婚し、年賀状には、可愛らしい赤ちゃんが写っていた。
私の店に来て、Mさんが最初に飲むお酒は、サミエルアダムス・ボストンラガーと決まっている。
お友達はチェコの銘酒、ピルスナータイプの本格派、ピルスナー・ウルケルを飲む。

そして、2杯目には、それぞれ、ジンジャービアーと銅のマグカップで作った、正統派のモスコミュールーを注文した。
Mさんの2杯目は、何時も正統派のモスコミュールに決まっている。
さらに様々なお酒を飲んでいる内に、下りの電車も終わってしまった。
すると、Mさんの友達が時計を見て「もう18日ですね。今日は僕の誕生日です」
するとMさん「マスター、何か、誕生日にふさわしいお酒をください」

そこで、私はイタリアのスプマンテ(スパークリングワイン)のピノ・ロゼを開け、私も含め、みんなで乾杯をした。
やがて、ママがMさんの子供の名前を訊いた。
娘さんの名前は向日葵ちゃんで、私の兄の息子の長女の名前と同じだった。

Mさん「マスター、向日葵をイメージして、何かお酒をください」
「向日葵と言えば、やはり、ソフィア・ローレンとマルチェロ・マストロヤンニが主役の、40年以上前の映画『ひまわり』を思いだすね。
あの一面のひまわり畑が、哀しく切なかったな。やはり、ひまわりなら金色。それならばやはり、スペインはバスク地方のリキュール『イサラ』だろう。
名前のイザラは星を意味する。このバスク地方は、アーネスト・ヘミングウェイの『日はまた昇る』の舞台になった所さ。
第1次世界大戦後、主人公のアメリカ人ジェイクとパリの仲間たちが、牛追い祭り(サン・フェルミン祭)へ行った場所だ。
やがて、スペイン内乱(1936年7月―1939年3月)が起り、フランコ率いるスペイン反乱軍を支援したファシスト枢軸により、
バスクのゲルニカは、無差別爆撃されて悲惨な歴史を刻んだ。
その残虐な行為に対する怒りの表現が、パブロ・ピカソが描いた『ゲルニカ』なのさ」

そして、私はオンザロックで、イザラをMさんに出してあげた。
グラスの酒は、黄金色に輝き、深いハーブの匂いが辺りに漂う。
Mさんはグラスを揺らしながら、漂う匂いを愉しみながら、やがて口に含み、飲みこむ。
やがて、Mさんの顔は、にこやかに、そして陶然とした表情に変わっていった。

すると、Mさんの友達が「私もいいですか? 雪のイメージでお願いします。できれば、雪の色でお願いします」
「アニスのお酒は大丈夫ですか?」
「アニスって、どんな匂いですか?」
「中華料理で使う八角ですね」
「あの匂いは好きです」
そこで私は、カクテルのウォッカ・アイスバーグをアレンジして、アブサンの代わりに、ギリシャを代表するリキュールのウゾーを使うことにした。

スミノフウォッカにウゾーを加え、オンザロックにしてステア。
さらに、ウゾー30ccに水を15ccほど加え、それをオンザロックのカクテルに混ぜると、さらに白が深くなった。
Mさんの友達は「本当に、雪色ですね。どうしてこうなるのですか?」
「一般的に言われていることは、水が加わることで、エッセンスオイルが分離し、光に乱反射して、白濁しているように見えるのです」
「お酒って不思議で愉しいですね」

すでに、時間は深夜2時近く。
お酒談議と旨酒の愉しい時間は、あっと言う間に過ぎて行く。
2人は雨の中、店の前に到着したタクシーに乗って、成増まで帰って行きました。


黄金に輝くIZARRA(イザラ)
フランスのシャルトリューズ・ジョーヌに似た、アルコール40%、エキス分21.5%のハーブリキュール。
ピレネー地方で採れるハーブは勿論、セイロンのサフランや、
フランスやイタリアで採れるエルダー(スイカズラ)の花液の成分を豊富に含む。

このリキュールは、今でもスペインからの独立を主張し、独立運動が盛んな、バスク地方のバイヨンヌで生産され、
かつて、フランコ大統領の独裁に抵抗した、勇敢なバスクの戦士に賛同した、アーネスト・ヘミングウェイも愛飲した。
IZARRAとはバスク地方の言葉で星をあらわす。